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ライブにおけるサークルの是非

 私は音楽が好きだ(特にロックバンドの曲)。故に、よくライブ、フェス(以下、「ライブ」で統一する。)に行く。

 

 ライブといえば、サークルというものをご存知だろうか。Wikipediaでは、一般に言われるサークルは、”ストーム”と同義であり、次のように定義されている。

 

“ストーム(storm)とは、ロックやヘヴィメタル、ハードコアなどのギグやライブコンサートで見られる共鳴的動作の一つ。サークルモッシュ、サークルピット、左回りなどと呼ばれることもある。複数のオーディエンスが、ある一点を軸に竜巻さながらの渦のような人の流れを生み出す現象で、とりわけギグやブロックで区切られた構成を採用するライブコンサートで見られる。「ムカデ競争の竜巻」という形容が似合う。エアギター、ヘッドバンギングモッシュダイブなどと共に見られる動作である。”(※1)

 

 状況を分かりやすく言うと、通勤ラッシュの電車内でかごめかごめをやるようなものだ。多くのライブの注意事項を見ると、ダイブ(人や柵を踏み台にし、集団の上に飛び込む行為)などの行為ほど危険ではないため、「サークルは禁止」と、特に明言されていない。それ故、サークルの是否を巡り様々な論争が勃発する。きのこの山たけのこの里論争、デートで男はどれくらいお金を払うべきか論争などと共に、数々の未決着の論争の1つに数えられる(と思っている)。

 

 一音楽好きとして、この論争に終止符を打つため、ファンはこの問題に対し、どう向き合えばいいのか、どうライブに参加するのがベターなのか、考えていこうと思う。

 

 まず、多くのファンはサークルを雨や風と同じ「現象」として捉えていると思う。サークルが生み出されたら抑える方法はほぼ皆無である(拳銃ブチ込むくらいしかない)。サークルという「現象」を作り出しているのはほかならぬ「人」であり、それ故、サークルを生み出す人間とサークルを嫌悪する人間でいがみ合いが始まる。一部のサークル否定派は、家でDVDかけて暴れてろと揶揄したり、サークルを広げようとしている人に対してメンチきったり肘打ちをかましたりする。実際に目撃したことがあるが、気持ち良いものではない。目には目を歯には歯を精神で、サークル拡大阻止しようとする気持ちは分かるのだが…。そういった否定派に、嫌なら来るな!という暴論をSNSで言うサークル肯定派を見たことがある。これも見ていて決して気持ち良いものではない…。

 

 じゃあお前はどっちなんだ!という声が聞こえたので立場を明らかにすると、私の意見は、どっちつかずで非常に恐縮だが、「そこまで好きではない」という意見だ。純粋にアーティストと向かい合って盛り上がりたいし、そこに他の動作は不要だと思っているからだ。「嫌い」と明言しなかったのは、サークルが発生すればそこに参加することもあるからだ。サークルは必然的に周囲を圧迫するため、その流れに入らないと非常に苦しい思いをすることがあり、「まあちょっと楽しむか」とフランクにそのサークルに参加する。(余談。ライブ中、かがんで床を叩く集団を見たことがあるのだが、あれだけはまだ理解できる領域に達していない。新興宗教のようで…。)

 

 ここで、餅は餅屋、ライブのことならライブを開くアーティストに聞いてみることにする。以下、4名のアーティストの見解を挙げる。(多くが、ダイブやモッシュなどサークル以外の行為にも言及したものであるが、ここでは便宜的にサークルにのみ言及しているものとする。)

 

 まず、サカナクションの山口一郎氏の見解。

 

“ライブ中に興奮さながら渦になってしまった現象をサークルと呼ぶんだね(笑)。こういうことが起きてしまうのは仕方ないけど、周りの人に迷惑をかけたり、突き飛ばしたり、イジメ的なことはしてはいけない。と、先生は思う。楽しんでいるのは良いから。それに入りたくない人が入ってしまった時には、危ないよ、こっちだよ、って出してあげたり、誘導してあげる事も必要かもしれないですね。”(※2)

 

“サークルに関しては、人に迷惑をかけているなっていうことになっていたらダメだと思う。例えば、静かな曲でサークルをやったりしたらそれはもう迷惑だし、静かな曲で大声で歌ったらそれは迷惑なんだと。全体的にみんなで楽しめる範囲で、ライブマナーを気を付けましょうってことで良いんじゃないですかね。人に迷惑をかけてはいけない。”(※2)

 

“バンドや曲によってはアリ。だけど、そうじゃないときにはしちゃいけない。”(※2)

 

 山口氏は、現象が起きてしまうことにある種の諦観を述べており、ケースバイケースで、周囲に迷惑をかけない範囲で容認する立場を明らかにしている。

 

 続いて10-FEETのTAKUMA氏の見解。

 

“そもそも全てを然るべきルールでガッチガチにしたら何も出来なくなる。そこを「俺ら全員で責任取るから遊ばしてくれや!」という様な気持ちで場所にもルールにもスペースを貰って遊んでいるんだ。実際全員一人一人を監視する人なんて居ないし居たところですぐに手は届かない。”(※3)

 

“僕達は場所と相手が居なければライヴ出来ない。みんなだってバンドとステージがなければライヴできないんだ。だからその場所を貸しくれた人や一緒に遊ぶ相手に対しての尊敬の意は多少なりともあった方がいい。と僕は思う。その上でのやんちゃだ。”(※3)

 

 「一緒に遊ぶ相手に対して多少なりとも尊敬の意を持ち、その上でやんちゃをする」という発言から、周囲に感謝の念を持つことを前提として、サークルを容認していると汲み取れる。

 

 次に、SiMのMAH氏の見解。

 

“だから、本当に申し訳ないけど。SiMのライブを暴れないで見ていたい人には

モッシュピットの近くにいて、吹っ飛ばされた。腕や足が当たった。ダイバーの足が当たった。それをアクシデントとして酌量できるのであれば、これからもその位置で見てて下さい。どうしてもそれを許せないのであれば、絶対に安全と言える位置から見て下さい』

と言うのがバンド側からの意見としては限界かもしれません。

 

 

もちろん、暴れる人たちが当然のことながら良識を持って暴れてくれるの前提だよ?暴れたくない人たちの権利を軽視してるんじゃありません。故意の暴走は論外です!事故だった全て場合の話しです。(でも、安パイで言ったらやっぱり安全な位置へ避難してもらうことになっちゃうかもな...)

 

 

答えはないけれど強いて言うのであれば、きっとそれぞれのバンドの曲調やパフォーマンスが答えなんだと思う。”(※4)

 

“両者の意見を聞いてあげたい。でも、どう転んだって反対派は消えない。

ある程度のバンドをやってるバンドマンは、みんなそのジレンマに苦しんでるんだ。”(※4)

 

 MAH氏は、サークルの是否はバンドの曲調やパフォーマンスによるという意見に帰着している。山口氏の、“バンドや曲によってはアリ。”という見解と同じと言えるだろう。

 

 最後に、HEY-SMITHの猪狩秀平氏の見解。

 

“いっつもライブハウスで言うねんけど、

 

とにかく自分は自分の為に思いっきり楽しんで欲しい。

 

もしかしたら、ちょっと度が過ぎて人に迷惑かけちゃうかもしれない。

 

できれば迷惑かけられた人は許して笑い飛ばしてほしい。

 

これが理想なんです。

 

俺は表現者やねんから理想以外は語りたくないんです。”(※5)

 

 ライブという特殊な環境ではファンに思い切り楽しんでほしい。故に、迷惑を被った側は笑って許してほしいと述べている。

 

 アーティストもサークルの是否には色々思うところがあり、考えを巡らせている。では、アーティストの意見も加味し、ファンはどういう意識を持つのがベターなのか考えよう。

 

 まず、サークルに否定的なアーティストのライブでは、サークルを生むべきではない。アーティストありきのライブだ。アーティストの意向を無視する行為は行ってはならない。アーティストに敬意を示すのは当然である。例えば、サカナクション。ボーカルの山口氏は、上記で引用したサイト内で自分のライブでサークルはやってほしくないと述べている。実際、去年のカウントダウンジャパンサカナクションを観たが、サークルらしきものはなかった(はず)。サカナクションの音楽を、考えを、ファンが理解している結果だろう。

 

 サークルに肯定的なアーティストのライブでサークルを生むことは、もちろんいいだろう。サークルは複数人が共有するため、気持ちが大きくなりやすく「おい、サークル作るんだから空気読め!そこどけよ!」という横柄な態度になりがちだ。そうではなく、「ほんっと、ごめん、今日だけ、今日だけ楽しみたいから、ちょっとスペース開けてくれ!」という「控えめなエゴ」を持とう。好きなら、やりたいなら、やればいい。アーティストも、自分のライブで楽しむファンを咎めはしないだろう。サークル否定派も、サークルが出来る可能性があるライブに来ているなら、サークルを生む者達に、「こいつら楽しみたいのか、しょうがねえな、今日だけだぞ」という自分がこいつらを楽しませる場所をあげているくらいの実るほど頭を垂れる稲穂の精神を持つことを期待したい。

 

 最後に、今後ライブマナーが変遷し、ライブの禁止事項に「サークル禁止」と明言されたら、それはそれでいいのではないか。あれもダメ、これもダメ、じゃあ何もできないじゃん、と嘆く者もいるだろう。しかし、考えてみて欲しい。多くのライブでダイブが禁止になったのは危険が指摘されたからだ。音楽を聴きながらの自転車走行が違反になったのも危険が指摘されたから。多くの公園で花火や野球ができなくなったのも危険が指摘されたから。そういった色々な規制がかかった中で、「何も出来なくなった」ことはあるだろうか。サークルがライブから姿を消しても他の楽しみ方を考えればいい。だが、その度に今回と似たような議論が起こるかもしれない。その時には、何百、何千という、自分と同じアーティストが好きなファンが一堂に会し、好きな音楽を共有する、それだけでお釣りがくるくらい素敵なことなんだから、もう四の五の言うのやめようぜ、的な空気が醸成されていればいいなとか思っている。

 

 では、全てのアーティストと、音楽ファンに敬意を込め、筆を擱こうと思う。ライブであなたと好きなアーティストの曲で体を揺らせる日を待っている。

 

※出典

 

(※1)”ストーム(コンサート)”.Wikipedia. 2015-8-27

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%A0_(%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88) (参照2016-2-27)

 

(※2)”宿題:ライブマナーについて考えよ!(2) サカナLOCKS! “ .SCHOOL OF LOCK!.2014-8-14

http://www.tfm.co.jp/lock/sakana/smartphone/index.php?itemid=2902&catid=17 (参照2016-2-27)

 

(※3)”いろいろ日記”.10-FEET.2010-10-30

http://www.10-feet.com/diary/index.html?method=articlelist&year=2010&month=10&offset=0 (参照2016-2-27)

 

(※4)”ライブマナーについて”. MAH from SiMオフィシャルブログ Powered by Ameba.2010-8-17

http://ameblo.jp/sim-mah/entry-10621810517.html (参照2016-2-27)

 

(※5)”とどのつまり。”. HEY-SMITH 猪狩オフィシャルブログ「MESSAGE FROM IGARI」Powered by Ameba.2014-2-19

http://ameblo.jp/hey-smith-igari/entry-11776127975.html (参照2016-2-27)